2015年8月の終わり頃、神奈川県鎌倉市(かまくらし)中央図書館が次のようなツイートを投稿(とうこう)しました。
「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰(だれ)も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃(に)げ場所に図書館も思い出してね。」
子どもたちが抱(かか)える問題から目をそらさず、逃げることは悪いことではないと伝えるこの投稿は反響(はんきょう)を呼び、多くの人がこの投稿を目にすることとなりました。この投稿を見て、勇気をもらった人もきっと多くいることでしょう。
図書館は学ぶためだけのものではなく、みなさんの『居場所』でもあります。家も学校もつらいと感じたら、図書館に行ってみるのも一つの手かもしれません。
今月の特集は、悩(なや)みながらも成長していく青春時代を過ごすみなさんへ送る一冊を相談員一人ひとりが紹介(しょうかい)していきます。気になるものがあれば、ぜひ探して手に取ってみてくださいね!
しずく相談員
生きることに悩むあなたに読んでほしい!
「3日間の幸福」
著者:三秋縋(みあき すがる) メディアワークス文庫
「では皆(みな)さんは、そういうふうにかけがいのないものだと言われたり、何よりも価値のあるものだと言われたりしている『人間の命』は、実際の金額にすると、いくらくらいのものだと思っていますか?」学級担任はこのとき、「正解はない」と言った。
主人公こと俺(おれ)、クスノキは小学生の頃から浮(う)いた存在だったが、唯一(ゆいいつ)心の通じ合う幼馴染(おさななじみ)ヒメノの言った「私たちは将来、とっても偉(えら)くなる」という言葉を信じ続け、二十歳(はたち)になった。しかし、ヒメノとは彼女の転校で離れ離れになり、この世界に馴染(なじめ)ず、今までずっと孤独(こどく)に生きてきた。
お金に困ったクスノキは古本屋の店主とCD屋の店員から寿命(じゅみょう)・時間・健康を買い取ってくれる不思議な場所があることを聞く。なかば自棄(やけ)でクスノキは自分の寿命を3ヶ月分だけを残してすべて売り払(はら)った。受け取ったお金は、サラリーマンの平均的な生涯(しょうがい)賃金である2億から3億よりもずっと低い、30万円。まるでその値段はクスノキの価値のように思えた。
寿命を売って余命が1年を切った者には監視(かんし)員が付き、クスノキは監視員の女性ミヤギと生活することになる。部屋の隅(すみ)に三角座り、まるで人形のような彼女と過ごしていく内にクスノキは見ないふりをしていたものに気付き、新たなものを見つけ、変わっていく。クスノキに対して素っ気ないミヤギもまた、過去を紐解(ひもと)きつつ変わっていく。
クスノキ、そしてミヤギが見つけた3日間の幸福とは――
「自分は何のために生まれたのだろう?」「自分には価値がないのか?」「幸せって何?」「成功って何?」「良い人生って何?」この小説はそんな疑問が詰(つ)め込(こ)まれた作品です。
この本から読み取れること、感じることは人それぞれだと思います。多くのテーマが詰め込まれた本なので、人によってキャッチすることが違(ちが)います。私がこの本からキャッチしたのは「変わることができる」ということと、「幸せは他人によって決められるものではない」ということ。この本を読んだあなたは、何をキャッチするでしょうか?誰のどのセリフが心の琴線(きんせん)に触れる(※注1)でしょうか?
この本のタイトルは読み終えた人にだけ意味が分かります。できれば、あとがきまで読んでみてくださいね。
※なお、この作品は「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」というタイトルでウェブ上に公開されていたものを文庫化したものです。
注1: 良いものや、素晴らしいものに触れて感銘を受けること。
うらら相談員
宇宙に興味のあるあなたに読んでほしい!
「人類が生まれるための12の偶然(ぐうぜん)」
著者:眞(しん) 淳平(じゅんぺい) 監督:松井 孝典 岩波ジュニア新書
あなたは信じられますか?
この広大な宇宙が生まれる瞬間(しゅんかん)、10-44 秒後の宇宙の大きさが10-34 cm であったことを。10-44 秒後とは1000兆×1000兆×100兆分の1秒後で、10-34 cm とは1000兆×1000兆×1万分の1cmです。そして、10-34 秒後に1cmになるのです(1034倍)。
このことがこの本の最初のページに書かれています。
私はこの本を大人になって読みました。この本を読むきっかけになったのは、私が子供の時もっていた疑問からです。「宇宙はいつできて、未来は、どうなるのか」、「人間はどのように現在のようになったのか」という素朴(そぼく)な疑問です。
しかし、私が子供のときには答えがなかったのですが、この本はみごとに分かりやすく答えてくれました。しかも、宇宙は「無」から偶然(ぐうぜん)、誕生して約137億年たち、それから地球が約47億年前にできたのも偶然で、更に、生物が出現し、約700万年前に、「ヒト」として進化したのも偶然の賜物(たまもの)だったのです。
このような信じられない偶然が12もあったのです。
この本を、
- 自分はどうなってもいいとか折れそうな時、ちっぽけな存在と思った時、家族や友人のことで悩(なや)んでいる時などに読むと、自分が人間として生またことが偶然による奇跡(きせき)であり、かけがえのない存在であることがわかり、元気がでてきます。
- 海を眺(なが)めたり、山を登ったり、夜の星や月を見上げたりすることが好きな人が読むと、いつもは意識していない水、土、空気、草木などの成り立ちとを知り、自然のありかたを深く考える、よい機会になります。
この本を読んでもまだまだ分からないことがたくさんあります。すぐ答えがわからなくても、疑問や興味を持ちながら歩んでいくことが大切です。多分、中学生から高校生ならほぼ理解できると思います。小学生は難しいところを飛ばして読んでも面白いです。中高生になったらもう一度読むとよいでしょう。大人の私にとっても楽しい本でした。
つくし相談員
中高生のあなたに読んでほしい!
「竜馬(りょうま)がゆく」(全8巻)
司馬遼太郎(りょうたろう)作 新装版文春文庫(1998年出版)
皆(みな)さんご存知の司馬遼太郎作の「竜馬がゆく」をお勧(すす)めします。TVでドラマ化されていますから、ストーリーはご存知かもしれませんね。長編小説ですが、中高生の男女を問わず、また、歴史好きの方も挑戦(ちょうせん)してみて下さい。中高生時代に読破すると、読書の楽しみや現在とこれからの人生をつなぐ一冊となりますよ。
この小説は、坂本竜馬を中心に幕末の大動乱期、攘夷(じょうい)(※注1)から討幕(とうばく)(※注2)へと、かけ抜(ぬ)けた人々の人間模様が描(えが)かれています。特に、注目してほしいのは、竜馬の日本を洗いなおして正しい国にすること(姉にあてた手紙)や外国とも交わり、世界に羽ばたくことなどの夢です。
夢を実現するために、薩摩藩(さつまはん)の西郷隆(たか)盛、大久保利通、長州藩の高杉晋作(しんさく)、木戸孝允(よし)、そして、竜馬に大きな影響(えいきょう)を与(あた)えた勝海舟(かつかいしゅう)との出会いなど、各藩で力をふるっていた若い武士(ぶし)たちとの交流や人間模様を読み取ってほしいのです。特に、当時の若い武士の人柄(ひとがら)や当時の若者の考え方、生き方にも触(ふ)れてほしいのです。さらに、作者の歴史観や登場人物を作者が評価しているところも参考になります。
今の中高生時代の生活と考え方には大きな違(ちが)いがありますが、あなた達が将来社会に出て、人間どう生きるか、人生どう生きるか、あなたに大きな指針を与(あた)えてくれる一冊となるでしょう。
注1:外敵を追(お)い払(はら)って国内に入れないこと。
注2:幕府を攻(せ)め討(う)つこと。
ピッピ相談員
何か足りないと思っているあなたに読んでほしい!
「何か私には足りない?それはなんだろう?」と自問自答しているあなたにピッタリの絵本を紹介します。
「えっ!絵本?」と思われるかもしれないけれど、驚(おどろ)くなかれ、これがなかなか深く考えさせる絵本なのですよ。
「何かが足りない それでぼくは楽しくない・・・」からお話が始まります。
自分探しの旅のお話。
主人公は、自分の欠けている部分を探しにどんどん進んで行くのですが・・・
この絵本を読んで、私が感じたことは二つあります。
- 自分の好きなこと、楽しいと思うことは、意外にぜんぜん自分は知らないのかもしれないなぁってことです。だから、自分が好きなことを発見すると、小躍(こおど)りしたくなるくらい嬉(うれ)しいのです。
- 本当の自分を探している旅の途中(とちゅう)も含(ふく)めて、ぜんぶまるごと自分の人生だということ。
さあ、新しい自分と出会ったあと、主人公はどうなるのか・・・
そんなお話をシンプルなイラストと言葉で表しています。
手に取ってもらえたら嬉しいです。
*「ぼくを探しに」
著者:シェル・シルヴァスタイン 翻訳:倉橋由美子 株式会社講談社
*「続 ぼくを探しに ビッグ・オーとの出会い」
著者:シェル・シルヴァスタイン 翻訳:倉橋由美子 株式会社講談社